桜川末子・松鶴屋千代八の名作に、数えうた今昔というのがあります。
数え歌というのはご存知の通り、「1つ人より力持ち~♪」という具合に、数に文句を付けて唄うものです。
そしてこのコンビの数え唄はまさに至芸。砂川捨丸・中村春代が割とゆっくりめのほがらかな感じの数えうたを持ち芸としていたのに対し、こちらはものすごいテンポと勢いで唄いあげます。
そして数が進むごとにどんどん早くなり、三味線と唄との競争のようになっていくところは聴きどころです。
数えうたの持ちネタも恐ろしく種類があるのですが、その中でも最も人気が高かったのがこの今と昔の数えうたです。
内容を説明するより、実際に見ていただいた方が早いと思うので、私が当時の音源から書き起こしたものを少しだけご紹介します。
あーれまひとーつーとませんえー
開けーたー昭和の御世は有難やんえー
土地も開成で益々と(ハイ)
山々々の深山もー大木倒して岩砕き(ハイ)
トンネルー開けて汽車電車
里を開いて道をつけー(ハイ)
自動車通いも訳はないえー
と、こんな感じのものが十まで続きます。
私も三味線の名取と一緒に老人ホームをまわってこういうのを披露した事がありますが、これを十まで覚えてなおかつ間違えずに早く唄うというのは、かなり難しいものでした。
これは昭和の後半に作られた数えうたですが、戦中に作られた防火数えうた、なんてのもあります。しかしながら平成で作られた数えうた、というのはあまり耳にしませんね。
考えてみれば私が入門してからは20年程経ちますが、その間だけでも色々と世の中変わりました。
何かと移動が多い我々狂言師ですが、入門当時は新幹線もひかりがまだまだ現役で、のぞみと半々か、少ないぐらいだったかと思います。
のぞみ増発がテレビCMで流れたりもしておりました。それが今や、新幹線の料金が割引になるクレジットカードまで出来て、ICカードで乗れる時代になりました。そういえば喫煙車や食堂車もありましたね。
その乗り継ぎを調べる手段も、いわゆるガラケーからスマホに様変わり致しました。海外公演や地方に行く時も、パソコンを持って行かずともタブレットで事足りる事も多いです。
また、入門当時千五郎家の衣装運搬用の車にはカーナビはついておりませんでした。
なので我が家には、入門当時に道を覚えようと思って買った道路地図が未だにホコリをかぶっております。
まぁこれは、カーナビが付いたからと言って道を間違える事がなくなったわけでもなく、運転がうまくなるわけでもなく・・・とこれは私の個人的なお話ですね(笑)
本来は芸の性質上、いつまでも新ネタを作りつづける事はできるはずなので、わずか20年でこれだけ違えば新作の今昔かぞえうたを作れそうなものですが、残念ながら私にはそちらの方の才がなく、誰か落語家さんとかが作ってくれないものかなぁと思っております。
お元気でしたか。
いつか「萬歳の至芸」についてうかがったものです。
あれからCDを手に入れて楽しんでいます。
ワッハ上方であった、音源を聞くイベントに参加した際に、
萬歳を文字に起こしたものをいただき、
自分でもやってみようかなと思ったのですが、
古いものは何を言っているのか聞き取れないことや、
言葉の意味が分からないことも多くて挫折してます。
数えうたなども、文字で読んでやっとそういう意味だったのか、
と分かることが多そうですね。
それは良いイベントに参加されましたね。
何の萬歳の文字起こしでしたでしょうか。狂言でもしばしばありますが、口伝の芸能は意味がわからないまま伝わってる言葉や、途中の誰かの言い間違いがそのまま伝わっているケースもあります。明確な家元組織のない放浪芸などは、特にその傾向が顕著かも知れませんね。
ご興味おありでしたら、大衆芸能資料集成などはオススメです。
イベントで聞いたレコードは、CDと重なってる演目が半分くらいはあったでしょうか。
さすがの先生でも不明な箇所があったようで伏字がいくつかありました。
「この世の説教」だったか、途中に出てくる、
「カラスがほじくるごんべだね」って何のことかな?と調べたら、
そういう民話があるんだとわかったり、いろいろと興味深いものだな、
と思います。
全十巻はそう簡単に手を出せない領域ですね。
「カラスがほじくるごんべだね」という事は捨丸のネタですかね。
大衆芸能資料集成で放浪芸に関連するのはほんの数巻だけなので、古本屋を探してみられると良いかと思います。