万歳からのぞきからくりまで 狂言師が実演する放浪芸

仁輪加の軽口

ここでは、仁輪加の出だしの部分を紹介したいと思います。

仁輪加では、
大抵本芸の前に軽口といって、まず1人が舞台へ出て前口上を喋ります。

楽屋から相手を1人呼び出して、
「おーい楽屋の色男、ちょっとここまで黄な粉餅」
すると、すぐさま心得たと飛び出してきて
「何か羊羹磯代餅」

「出るが早いか、えらいシャレやなぁ。」

「お洒落の蒲焼鰌汁(どじょうじる)」

「いやおおけにご苦労さん。」

「いやおおけに十苦労さん。」

「なんや十苦労さんなんて。」

「ご苦労さんを、私とあんたと2人分を合わして十苦労さん。」

「なんや勘定はせんでもええ、これから2人してこの舞台を持ちますのや。」

「あほかいなこの人、こんなこんな大きい、こんな重たい舞台を、
私とアンタのたった2人で持つ、あかんあかんとてもそんな力があるもんかいな。」

「何をスカタン聞いてるのや、お客さん方のお気を浮かすのや。」

「へーん、この小屋に一杯水を張ってか。」

「そんな事をしたら、お客さんが土左衛門にならはるがな。
違う、パアーっと熱を上げるのや。」

「よっしゃ、楽屋へ飛んでいて、風邪薬を買うて来て用意をしとかんとあかんぜ。」

「ようせんぐりせんぐりそないに間違うなぁ。
判らん男やぜ、2人して芝居ごとをするのや。」

「そらあかん、やめとこう。飯食うたあとの仕舞いごとなら、
いつも家内がしてくれてます。土台、私が慌て者ですやろ、
じきに茶碗や湯呑みを割ってなぁ、いつも叱られどおしや。」

「そんな事自慢にならんが。」

まずこれが紋切り型の対話で、年中同じ文句を繰り返します。
そしてこれから芝居となるわけです。