コミュニケーションのための芸能入門

サラリーマン狂言師の放浪芸雑録 第3回 のぞきからくり

今回は「のぞきからくり」について取り上げたいと思います。
略して「のぞき」と呼ばれる事もありますが、決して男子が修学旅行で風呂の時間に行う紳士の嗜みの事ではありません。
のぞきからくりとは、昔の縁日や祭りで出されていた屋台の1つです。
大きな屋台の前面にのぞき穴が多数付いていて、中の絵は、両脇に立った男女のうた(からくり節)に合わせて紙芝居の様に変わっていきます。

節は七五調で大変テンポがよく、竹でバシバシと屋台上部を叩いて拍子を取りながらうたいます。また、地域や演じ手によっても節に大きな違いがあります。
のぞき穴のレンズの効果と、中の絵(中ネタと言います)自体に施された細工(羽子板の様になっています)によって、立体的に見えます。言わば昔の3Dですね。
ちなみにこのレンズは、現在の日本の技術では再現出来ない物らしいです。

演目は、「地獄極楽」のような普遍的なものから「金色夜叉」のようなストーリーもの、火山の噴火や地震、事件などを題材にしたニュース性のある時事ネタが作られていたようです。
また、私は未読ですが江戸川乱歩の「押絵と旅する男」は、のぞきからくりが題材になっているそうです。落語の「くしゃみ講釈」にも出て参ります。
江戸の後期に誕生し、明治・大正・昭和と続き、戦後もかろうじて残りましたが、映画や紙芝居などの台頭ととも廃れ、大阪の四天王寺などで最後までのぞきからくりを実演されていた黒田種一さんが昭和55(1980)年に引退して、現在では廃絶しておりもはや縁日でその姿を目にする事は出来ません。

しかしながら、近年新たな試みも各地で行われております。
その中の一つに、大阪の「ええみのお推進市民の会」というところが、のぞきからくりを現代風にアレンジして製作・実演されています。
本物の屋台は木製ですが、軽さと強度を考慮しパイプとパネルを使い、中ネタはプロジェクターを使って画像を映し出します。
演目もオリジナルで、箕面ゆかりの「役の行者」や「泣き地蔵」などを、節もオリジナルで実演されています。

元々は箕面の観光PRのための方法として採用されたのですが、なかなか評判もよく、箕面以外での公演もしばしばあるようです。
…と、ひとごとの様に書きましたが、実は僕もこの箕面ののぞきからくりには、製作段階から関らせていただいておりまして、何度か実演もさせていただいております。


今回掲載しました写真は、2008年に京都東寺のがらくた市で、友人で女優の泉希衣子さんと古典演目「地獄極楽」を黒田種一さんの節で実演した時の物です。
あいにくの曇天だったのですが、お年寄りの方々から、非常に懐かしかった、こんな節だった、と大変ご好評をいただきました。
この時に使った画像は、奄美大島にある原野農芸博物館という所に保管されている本物ののぞきからくりの中ネタの画像で、特別に許可をいただいて使用しました。
ここには「俊徳丸」の中ネタも保存されており、これも折を見て実演してやろうと目論んでおります。

ちなみにこの中ネタですが、昔からおよそ家が一軒建つ程度の値段だと言われております。
しかし、やはりプロジェクターではなく本物でやりたい!とりあえず金額だけでも正確に調べよう!と思い、ある工芸社へ見積もりを出したのですが、900万の見積もりが返って来て泣く泣く断念しました…。
それでも最盛期は、それに見合うだけの儲けは十分あったようです。
1演目10分以内なので、1時間に5回程度。実働が5時間程度と考えて、25公演。1回に10人以上は観る事が出来るので、単価×250~300。昭和40年代前後と思しき写真では、大人100円、子供50円との表記が見受けられます。演者は2人なので、これで全国の祭や縁日を転々とすれば、たしかによい稼ぎになったのかも知れません。

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